あんなに楽しそうにやってる人初めて見たんです
最終戦。
4回2アウト2ストライクまで無四球ノーヒット。
立ち上がりが悪すぎるボクにとってはありえないデキ。
最初から指先の神経が集中していて思ったところにバッチリ決まっていた。
針の穴も通せそうなコントロール。
1球で打ち取れそうな球威。
ユウキがマウンドに来る。
「テンポいいんで声かけるのためらってたんですけど、ガマンできないです。今日どうしたんですか? ダイジョーブ博士の手術でも成功したんですか?」
と目を丸くしている。
そして
「今日のコントロールならいけそうだな・・・」
と独り言。
「こここう握って、いつものリリースポイントで手首20度ぐらいで放ってください」
言われた通り投げると、グゥィィィン曲がって落ちて空振り三振。
あまりの変化に自分を疑う。
バッターもビックリしてた。
ベンチに戻る。
「なんだアレ!?」
「カーブです」
「カーブじゃねーだろ!! カーブならたまに投げてたろ!?」
「今まで投げてたのは回転が足りな過ぎて風で曲がったただのストレートです」
「いうやん・・・」
「これがカーブです。いまどきで言うとナックルカーブとも言います」
「ナックルカーブ!? パワプロで見たことある!!」
「あれぐらいだと狙って三振狙えますね。これでまたレベルが上がりましたね」
「35にしてまだ成長止まらないのかオレは・・・。怖いぜ自分の底知れない能力が・・・」
「じゃあいつものいきましょうか」
「おう」
「せーの」
「「バルスタリー」」
追い込んだらカーブのサイン。
狙い通りの三振。
バックからおぉぉ!!と歓声。
なんであんたらが驚くのよ・・・。
その次は振り逃げ。
ユウキが取り損ねるぐらい。
振り逃げなんて、自分がバッターの場合はヒット打ったばりに喜んでたが、逆の立場になると
『ホラ走れ走れ。早く走れ。みすぼらしい』
ぐらいになる。
が、調子乗ってたらそこからストレートがまったく入らなくなり
5
(涙)
ユウキのせい。
ユウキはいつも余計なことさせるよ まったく。
キャッチャー×だな まったく。
プロ諦めて正解だよ まったく。

ところで。
夏ぶりの試合。
前回、新しくヤングガイが入部していた。
武井さんの同僚だという彼は高校大学と有名な投手だったと紹介された。
だけど、彼は今日も投げず、ファースト守ってたんだけど、送球もそんなに鋭くなくて凄さをまったく感じない。
話を聞くと大学まで肘や肩を4回手術してもうまともに投げれないとのこと。
「でもあの頃は野球が嫌いでした。ケガしてなくてプロに入れたとしても間違いなくダメでした。でも今は野球が楽しいです」
でもなんだか悲しそうだ。
ボクは肘の手術痕を見せてこれでプロを諦めたとか嘘つくんだけど、もう二度と言わないと心に誓った。
「春に武井さんに誘われて試合見てたんですけど、冨樫さんのピッチング見てまた野球がやりたくなったんです。あんなに楽しそうにやってる人初めて見たんです」
彼が感動的な話を真剣に語るのを目の前に言えなかったが、
まったくもって楽しんでなんかいない。
そもそもピッチャーなんてやりたくないんだから。
毎度苦しんでいるだけだというのに。
それなのにそんな風に捉えられているなんて・・・。
口が裂けても言えねぇ・・・。
ボクは自分でも気づかぬうちに己の創造すらも追いつけない域に達してしまったのだろうか・・・?

by WASH2011 | 2017-12-02 22:47
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